――“自給率100%”でも米が買えない日本の不都合な真実――

最近スーパーで米を手に取るたび、「えっ、また値上げ?」と驚く。5kg袋は3,500〜4,000円、銘柄によっては4,500円前後。農水省統計でも2024年12月の卸相対価格は 24,665円/60kg(前年比+60%) と、平成2年以降の過去最高を更新した。​
それでも店頭には「一家族一袋」の張り紙まで出る始末だ。​

“コメの自給率は100%だから心配いらない”――。
そう聞かされてきた私たちは、なぜ平時に「米難民」になったのか。

本稿では ①異常気象、②需給ギャップ、③政策、④国際要因、⑤流通コスト の五つの落とし穴を、3,000字弱で批判的に整理する。


1.異常気象という「品質リスク」を甘く見たツケ

2023年夏は観測史上屈指の猛暑。結果、新潟産コシヒカリの1等米比率はわずか4.9%、うるち米全体でも15.7%――例年の80%前後から大暴落した。
「収穫量は平年並み」と政府は胸を張ったが、等級が落ちれば実売量は激減する。穀物の“量”しか追わない統計は、品質リスクを過小評価してきたと言わざるを得ない。


2.需要増を読み違えた需給レーダー

コロナの水際対策が解け、2024年の訪日客は過去最多ペース――外食需要が一斉に回復した。
さらに小麦・パンの連続値上げで家計が「主食を米へ」シフト。
にもかかわらず、農水省は“毎年10万トンずつ需要減”という古い下り坂モデルを据え置いたまま生産調整を継続した。需給予測が外れれば、在庫は一瞬で蒸発する。その結果、2024年7月時点の民間在庫は前年より40万トンも少なくなった。


3.形を変えて生き残る減反政策

「減反は2018年に廃止した」と言われるが、飼料用米や麦への転作補助金はむしろ拡充。事実、2023年産主食米の作付面積は 前年比▲9,000ha である。
米余り時代には意味があったかもしれない生産調整が、猛暑+需要増の年に“供給の首を絞めるロープ”に転じた。政策担当者の言葉を借りれば「想定外」だが、リスクシナリオを潰しておくのが政策のはずだ。

しかも政府備蓄の放出も後手。備蓄米は価格安定のはずが、「市場に届く頃には価格が天井を突いていた」というのでは本末転倒である。


4.輸入という逃げ道を塞いだ世界市場

米不足なら輸入で――と思いきや、最大輸出国インドは23年7月に白米禁輸、タイ・ベトナムも値上げで国際相場は15年ぶり高値。​
しかも円安。高関税(1kg341円)がかかった外国米は“高くてまずい”烙印を押されやすく、結局国内産しか選択肢がない。**自給率100%は裏返せば“多角化できない脆弱性”**でもあるのだ。


5.「物流2024年問題」とコストプッシュ

ドライバーの残業規制が始まり、配送能力は目減り、運賃は上昇――企業の66%が「物流コスト増」を懸念する。
燃料代や資材高騰も重なり、精米5kgあたりのコストは2年前から1.3倍に膨らんだ試算も出ている。
生産者が値上げしなくても、流通がボトルネックになれば店頭価格は跳ね上がる。高騰期に買い占めが起きれば、配送頻度アップでコストはさらに跳ねる――悪循環だ。


古びた前提が“安定供給”を壊した

猛暑は天災だが、米価高騰は人災でもある。

  • 「需要は減り続ける」
  • 「安い輸入米で補える」
  • 「物流は黙って走ってくれる」

――そんな昭和の常識を温存したまま、減反と備蓄の微調整で“帳尻合わせ”をしてきたツケが2024年に一気に噴出した。

政府は2025年産の増産を呼びかけ、高温耐性品種の導入補助も打ち出したが、制度の根幹――需給予測の精度と生産調整の手綱の握り方――を改めなければ、同じ轍を踏むだけだ。食料安全保障を声高に唱えるなら、

  1. リアルタイム需給データの公開と検証
  2. 備蓄放出ルールの透明化・迅速化
  3. 減反補助の抜本見直し
  4. 物流2024年問題への総合支援

――最低でもこの四点は急務だろう。

「令和の米騒動」はまだ終わらない。“コメ余りの幻想”を捨て、リスクに耐えるサプライチェーンを再設計できるか。 この課題を放置すれば、来年も再来年も“米が買えない国民”がニュースの見出しを飾ることになる。

安くておいしいコメは、タダでは食卓に届かない。私たち消費者も「価格だけ」でなく、政策と供給構造を監視し、声を上げる責任があるのではないか――そう強く感じる。

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です